悲劇のヒロインを創り出す「ミュンヒハウゼン症候群」

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ミュンヒハウセン症候群Münchausen syndromeは周囲から注目され、構ってもらいたいがために自ら、もしくは他者を痛めつけてあたかも病人のようにふるまう虚偽性障害の一種である。

「私はかわいそうな難病患者」

ミュンヒハウゼン症候群の患者は自ら病気を創作したり、すでに罹っていた病気をさも難病のように見せかけることで周囲からの注目や同情を集めようとする。自分をわざと傷つけたり、痛みなどの主観的な症状を大げさに言うことで自分が難病にかかっていることを周囲にアピールし、時には不必要な手術を受けたり、わざと人の前で副作用の強い薬を飲んだりすることもある。こうすることで、医師や周りの人の同情を得ることだできるのだ。

この病気は以前はいわゆる「詐病」の一種だと考えられていたが、詐病と決定的に異なるのは、詐病は保険金などといった経済的利益を主な目的としているため、ウソがばれるのを恐れて周囲の注目や詳細な検査を嫌うのに対し、ミュンヒハウゼン症候群は周囲からの注目といった精神的利益を目的としているので、詳細な検査や医師による診察といったウソがばれかねないリスクも喜んで受け入れるという点である。

病院に通い続けた男性

バンドで締め上げられた腕(日本ペインクリニック学会誌 vol.17 No.1,21~24,2010)

バンドで締め上げられた腕(日本ペインクリニック学会誌 vol.17 No.1,21~24,2010から引用)

実際の症例を見てみよう。47歳男性が腰痛を訴えて車いすで病院を訪れた。彼は3年前に左足の骨折により手術を受け、2か月前に腰痛のために手術を受けている。今回の腰痛は術後の痛みだろうと思われた。検査の結果、全体的に筋力が低下していることがわかり、痛みの程度は10段階中10であると本人は主張した。

そこで薬物治療が開始されたが、薬によって皮疹がでたと彼が主張したため、すぐに薬物治療は中止となった。しかし、翌日医師が確認したところ皮疹はすでに消えていたという。さらに、院外で普通に歩いているところを目撃されたり、食欲が全くないと訴えたにも関わらず血液検査では低栄養がみられなかったりと本人の訴えと矛盾する点が現れ始めた。そんな中でも彼の症状は止まらず、腕のむくみや麻痺、咽頭痛などといった当初の腰痛とは関係の内容な様々な症状があらわれていた。

そんなある日、彼が今度は腹部の不快感を訴えて来院した。そこで、医師がレントゲンを撮ったところ、腸内にナットやクリップといった金属が発見されたのだ。彼は工事現場の下を通りがかった時に何かの拍子でナットが体内に入ったかもしれないと主張したが、なんとも無理のある説明である。さらに、むくんだ腕に自分でバンドを巻き付けているところを発見される。本人にこのことを問いただすと、動揺しつつもこうしていると楽であると答えた。しかし上の画像を見てもわかるとおり、このバンドによって静脈還流が妨げられているために浮腫が起きていることは明らかである。この時点で医師はミュンヒハウゼン症候群を疑い、過剰な治療を行わないように指示したという。

以上、典型的なミュンヒハウゼン症候群の症例を紹介した。この症例の著者は医療スタッフは早期にこの病態を認識し、この病的行動により混乱させれないことが重要だと締めくくっている。

代理によるミュンヒハウゼン症候群

ミュンヒハウゼン症候群の中には、さらにやっかいなことに障害の対象が自分自身ではなく、多くは自分の子供などの他者に向かうものがある。これがよくテレビなんかでも紹介される「代理ミュンヒハウゼン症候群」である。

代理によるミュンヒハウゼン症候群の患者は、自らの子供に毒を盛ったり、医師に虚偽の訴えをすることで悲劇の親を演じる。そのことによって周囲から同情を得られるからである。さらに代理によるミュンヒハウゼン症候群の患者自身が(自身に対する)ミュンヒハウゼン症候群も患っていることも多いという。

代理によるミュンヒハウゼン症候群の症例は世界中で報告されていてアメリカでは年間1000件近くもの症例があると言われている。その死亡率は厚生労働省のマニュアルによると約9~22%と高く、無視できるものではない。有名な症例だと、自分の子供に抗てんかん薬を大量に飲ませた上で救急車を呼んだ例や、海外では子供の点滴のチューブにバクテリアを入れるなどして200回以上の入院と40回以上の手術を受けさせた例などが知られている。今回は、最近話題になった症例を紹介しよう。

SNSで注目を浴びるため息子を毒殺した母親

Garnett君とその母親(http://garnettsjourney.blogspot.jp/より引用)

Garnett君とその母親(http://garnettsjourney.blogspot.jp/より引用)

2014年1月26日、ガーネット君という5歳の男の子が腹痛を訴えたのちに息を引き取った。医師たちが調べたところ、血中のナトリウム値が異常に高いことが発覚。警察の捜査によって、母親がガーネット君に大量の食塩を与え、電解質異常により死亡したことが分かった。

実はこの母親、以前からブログやFacebookなどのSNSでガーネット君の病弱な様子を綴っており、そのことで周囲から同情されることや、Facebookでたくさんの「いいね」を得られることに快感を覚えていたらしい。少なくとも2度はカーネット君のことを故意に弱らせていたことが分かっているという。母親が運営していたブログ「Garnett’s journey」は現在も閲覧可能で、掲載された写真の中の男の子の無邪気な笑顔にひたすら心が痛む限りである。

(参考)
子ども虐待対応の手引き – 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv36/dl/02.pdf
ミュンヒハウゼン症候群の一例 -日本ペインクリニック学会誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspc/17/1/17_1_21/_pdf

 

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